「国土の約7割が山地」という条件は、日本列島全体の構造的特徴でありながら、とりわけ内陸県や日本アルプス周辺地域において極端な形で可視化されてきました。ここでは特定の県名ではなく、「可住地が3割に制約された経済空間」として抽象化して捉えます。標高差が急峻で、平地が河岸段丘や狭い盆地に限られるため、歴史的に大規模な平野型農業や広域工業団地の展開は制約され、その代わりに、谷筋ごとの小規模自給、峠を越える交易、山林資源の利用が主たる経済行動となりました。
この「垂直方向への制約」と「水平方向の分断」は、輸送コストと移動時間を高止まりさせる一方で、局所的な自律性を強化しました。明治期から昭和前半にかけての鉄道網整備により、山間部と都市圏が本格的に接続されたのはここ100〜130年程度に過ぎず、それ以前は山は障壁であると同時に防衛線であり、文化的な境界線でもありました。その結果、この地域の経済的アイデンティティは、「広く薄く」ではなく「狭く深く」、限られた空間で生産性と付加価値を極限まで高める方向に進化していきます。
山地比率が高い地域では、産業集積は「面としての工業地帯」ではなく、「谷ごとの専門クラスター」として形成される傾向があります。たとえば、ある谷筋は精密部品、別の盆地は果樹や高原野菜、さらに別の山麓は観光・温泉といった具合に、標高・気候・交通条件に応じて産業が分化してきました。ここでの中核は、大企業の巨大工場というより、中堅企業と中小企業群が連鎖する「多層サプライネットワーク」です。
この構造は、一見すると断片的でスケールに乏しいように見えますが、実際には部品加工、農産物の選別・加工、観光サービスなど、細分化された機能が谷ごとに高度に特化しています。特定の精密加工企業が世界市場向けにニッチ部品を供給し、その周囲に20〜50社規模の下請・協力企業が集積するような構造が散在しており、これは「空間が分断されているからこそ、機能で結びつく」ネットワーク型エコシステムとみなせます。研究開発も、大都市圏の大学や研究機関との連携を介して、地場企業の試作・実装能力と接続されており、「R&Dは外部、実装はローカル」という分業が静かに成立しています。
山地が7割という環境では、土地も水も労働力も「余剰」ではなく「希少資源」として扱われます。この感覚が、企業経営の価値体系にも深く入り込んでいます。限られた平地に工場や住宅、農地を詰め込むため、配置計画、動線設計、在庫配置など、空間利用の最適化は日常的な思考となります。
同時に、冬季の積雪や峠越えの制約は、「一度の移動で最大限の用事を済ませる」行動様式を生み、これは物流や営業の設計思想にも反映されます。歴史的な木地師や鍛冶、織物などの山間手工業は、わずかな資源から高い付加価値を引き出す「密度の経済」を体現しており、この「制約下での最適化」が、現代の精密加工や少量多品種生産の文化的基盤として生き続けています。
大きな転換点は、高度経済成長期から1980年代にかけての自動車・電機産業のサプライチェーン拡張です。平野部の大規模工場がコストと用地の制約に直面するなかで、山地比率の高い地域は「安価ではないが、技術密度の高い加工拠点」として位置づけられました。1970〜1990年代にかけて、多くの山間部に小規模工業団地が整備され、そこに進出した企業が地場の職人技術と結びつくことで、精密機械、金型、電子部品などのクラスターが形成されました。
その後、2000年代以降のグローバル競争と円高、人口減少は、このモデルに大きな圧力をかけましたが、同時に「量から質」「汎用品からニッチ・カスタム」への移行を促しました。結果として、一部の地域では、観光・農業・製造を横断する形でのブランド化や高付加価値化が進み、「狭い市場だが高い単価」という新たな均衡点が模索されています。
山地比率7割の構造は、インフラ維持コストを慢性的に押し上げます。道路、橋梁、トンネル、送電網、通信インフラはいずれも単位人口あたりの固定費が高く、自治体財政や事業採算に重くのしかかります。人口減少率は全国平均より高いケースが多く、特に若年層の流出は、技能継承とイノベーション双方のボトルネックとなります。
また、産業構造が中小企業依存であるがゆえに、資本調達、デジタル投資、人材採用においてスケールメリットを享受しにくいという現実もあります。大都市圏との競合ではなく、「補完関係」を築くことが合理的である一方で、政策や規制はしばしば平野部前提で設計されており、山間地域の実情と微妙なミスマッチを起こします。リーダーは、「すべてを内製化しない」「すべてを外部依存にもしない」という中庸の構造設計を、地形制約を前提に組み立てる必要があります。
データサイエンティストにとって、この地域は「制約条件付き最適化」が現実世界で長期的に実装されてきた実験場のように映ります。可住地3割というハードな制約のなかで、産業、物流、生活圏がどのようにレイアウトされ、どのようなネットワーク構造をとっているかは、組織設計やプロダクトアーキテクチャの比喩として読み解くことができます。
広大なリソースを前提とせず、「限られたノードをどう結線し、どの機能をどこに置くか」という発想は、データ基盤設計やモデル運用にも通底します。すなわち、すべてを一極集中させるのではなく、山間の谷筋のように、小さなクラスターを機能別に配置し、それらを細いが強靭なパイプで結ぶ構造です。山地比率7割の地域は、「制約が強いほど、設計の精度が問われる」という事実を、静かに、しかし一貫して示しているように思われます。